石坂洋次郎『青い山脈』

石坂洋次郎青い山脈新潮文庫、1952年11月
いろんな意味で面白い。読みながら感じたのは、この小説は漱石の『坊っちゃん』に似ているということ。『坊っちゃん』の女性版といったところだろうか。
これは昭和22年に刊行された作品だ。なので、現代の価値観から読むと、ひどく幼稚な内容だし、ツッコミどころが多い。ツッコミながら読んでいくと、かなり楽しむことが出来る。たとえば、物語の中心人物である女学校の校医をしている沼田の言動には、いまならセクハラと指摘されてもおかしくないものがある。そのような人物が、新時代の「恋愛」を体現する人物として設定されている。
この小説の主題は、「恋愛」。つまり、戦後の新しい社会における理想の男女関係は何か、ということだ。そして、理想的な男女関係の追求を通じて、多くの読者に「民主主義」というものを伝えようとしているのだろう。自由な恋愛、男女の平等な関係、個性の重視、お互いの精神を発展させることを目指す夫婦関係...etc。こうした内容を、戦前の男女関係/新時代の男女関係という分かりやすい二項対立で語っていく。小説中では、「自然」という言葉が、何度か出てくるが、要するに戦前の考え方は不自然であり、その不自然さを矯正していく、「自然」な男女関係へと導いていくことが、この小説のあるいは戦後社会の目標となるだろう。

青い山脈 (新潮文庫)

青い山脈 (新潮文庫)