富永健一『社会学講義』

富永健一社会学講義 人と社会の学』中公新書、1995年4月
第一章で、「社会学」とは何かと、社会学が何をする学問であるかを述べる。つづく第二章は「理論社会学」、第三章は「領域社会学と経験社会学」で、理論研究と実証研究を概観する。最後の第四章は「社会学史の主要な流れ」ということで、社会学の学説をコンパクトに説明する。
個人的には、第二章の理論社会学と、それに関連した第四章の学説史に大いに関心を持つ。しかし、経験社会学という要するに社会調査のところも読んでみると面白い。データを集めて、それを解析することで、見えてくる事実があるものだとあらためて知る。
いくつかメモ。

五〇年前の毛沢東革命では、毛が農民を武力でオーガナイズすることに成功した。ロシア革命と中国革命は、共産主義革命の古典的な代表例であったが、現在の先進諸国においては、教育が普及していることと、マスコミが発達していることから、シンボルとメディアの動員による世論形成が有効になされ得ないかぎり、大きな社会変動は起こり難いであろう。古典的な「革命」は、先進諸国ではもう起こらないであろう。(p.146)

分かってはいたが、たしかにもう「革命」は起こらないのだろうなあと。一夜にして、まったく別の社会が誕生する、そういう劇的な変化が起きないかなあと、ロマンチックな妄想を日々抱いていて、このロマンチシズムを満たすための「革命」には興味を持っているのだけど。
それから、古典的な「革命」の成功の鍵は、やっぱり農民だったのだなあと。これはゲバラの本を読んだときに知ったこと。キューバ革命も農民のおかげだった。

 戸田(貞三)の研究のいちじるしい特徴は、一九二〇(大正九)年の第一回国勢調査の「千分の一抽出写し」をつくってこれを手集計することにより、コピー機も電卓もコンピューターもない時代に、日本全国の家族のデータ解析を行ったことである。小家族への傾向と家父長的家族の伝統というこのあい反する二つの力は、現実にはどこに落ちついているか。データ解析の結果、戸田は、全国の世帯構成員(個人)総数のうち八一・九パーセントが核家族を構成していること、また直系親三世代またはそれ以上から成っている家族は全国総家族の二九・一パーセントにとどまること、を見だした。(p.172)

これは面白い事実。このデータについて、著者は「戦前の日本の家族の大多数が直系家族であったかのように想像しやすい誤謬を正すものとして」きわめて意義が大きいと述べているが、たしかにその通りだなと思う。このことは、覚えておいたほうがいい。特に大正時代とか昭和のはじめの文学を読むときには必須の知識だ。ただし、すでにその当時に、調査で明らかになっていたことに注意しておきたい。

社会学講義―人と社会の学 (中公新書)

社会学講義―人と社会の学 (中公新書)