内藤朝雄『いじめの社会理論』

内藤朝雄『いじめの社会理論 その生態学的秩序の生成と解体』柏書房、2001年7月
いじめの構造を理論的に明らかにしている。ちょっと私にはその理論的な説明が難しくて、きちんと理解できたかどうかは心許ないが、いじめの根本に、全能図式(つまり、己の望むことを実現すること)と利害図式が接続されていることを指摘しているのはかなり納得した。いじめっ子は、なにもストレス発散のために、衝動的に暴力を振るったりしているわけではない。いじめを行う際には、自分の行動がどう周囲に影響を及ぼして、それが自分自身のとってどんな得になるのかきちんと計算しているのだ。いじめっ子や暴力を振るう人のこういうところが嫌だなと思う。
あと、リベラリズムを底にした社会設計の提案がなされ、それをもとにした新たな教育制度案を最後に示している。ここでは、「教育チケット」なるアイデアが登場する。これは、教育に関してのみ利用することができる特殊な貨幣を発行し、これを収入に対して逆比例的に配分することによって、教育の機会平等を図ろうとするものだ。地域通貨に似ているのかなと思った。
で、このチケットを利用して、さまざまな学習サポート団体にアクセスして、個々人が思考錯誤しながら学習をし、必要な認定試験に合格することが目指される。学習サポート団体は、合格させなければ、人が集まらなくて消滅してしまうから、質の高いサポートの提供が要求される。このアイデアでは、「魅力と幸福感による淘汰」が重要になっている。これによって、教え方が悪いくせに暴力を振るう教師がいる団体や、いじめが蔓延する団体が淘汰されていくだろう。このアイデアは、けっこう面白いかも。

いじめの社会理論―その生態学的秩序の生成と解体

いじめの社会理論―その生態学的秩序の生成と解体