日本文学も捨てた物ではない

仲俣暁生『ポスト・ムラカミの日本文学』朝日新聞社
この本を読んでみても、やはり80年代は、文学にとっても不毛な季節だったのだなあと思う。特に芥川賞がまったく機能しなくなったのがこの80年代だったということになる。その反動というか、90年代の芥川賞は開き直りの時代と言えるのだろう。でも、確かに90年代の現代小説は賞とは関係なくけっこう面白くなってきている。その一方で、この種を捲いたと言える村上春樹村上龍が退却しているように感じるのは錯覚か。
それから、「ルームシェアリング小説」というテーマも面白い。「家」というのは近代文学では重要なテーマだけど、近代文学が扱ってきた「家」とは違う新たな空間が文学に登場してきたのかなあと。「家」に住むのは、もちろん家族だったのだけれど、現代では家族でも恋人でも友人でもない人同士が、一つの部屋で生活する。「ルームシェアリング」ということによって、新たな人間関係が生じていることを示唆していて、面白い。たしかにこの系譜を作るのも文学研究のテーマとして魅力がありそうだ。ところで、たとえば漱石の『こころ』は、ルームシェアリングと言えるのかなあ。先生とKが一緒に生活するのだけど…。