四方田犬彦『貴種と転生・中上健次』

四方田犬彦『貴種と転生・中上健次ちくま学芸文庫 ASIN:4480086390
半年ぶりに再読。やっぱり何度読んでも面白い。ポストモダンの文学批評の一つの到達点である。私は、この本を読むたびに中上について何か書かなくては、と思わせられる。この本に圧倒的な影響を受けているけれど、やはり最後はそれを乗り越えなくてはと。
三島の残した「物語」の問題をある意味、受け継いだのが中上であって、三島が「物語」を生き、「物語」に殉じたとすれば、中上は「物語」そのものを解体に導いた/導こうとした、と言えよう。
三島にとって、「物語」が絶対的、超越的存在だったとすれば、中上にとっての「物語」は差異でしかない。共に、「天皇」というものが問題になるが、三島の「天皇」が日本の文化を根底から支える「場」(つまりは、三島文学の支えなのだろう)だとしたら、中上の「天皇」は「物語」を生み出す「場」でこそあれ、それは単に差異としてしか認識されておらず、やがては解体されてしまうのではないか。
三島/中上の差異というのは、戦後の文学を考える上で非常に面白い。