西原大輔『谷崎潤一郎とオリエンタリズム――大正日本の中国幻想』

◆西原大輔『谷崎潤一郎オリエンタリズム――大正日本の中国幻想』中央公論社
大正時代、谷崎には「支那趣味」というものがあった。すなわち中国をエキゾチックな空間として幻想する、いわばオリエンタリズムの一典型であると言えよう。というわけで、この谷崎の「支那趣味」をサイードオリエンタリズムの視点から研究したのが本書である。
支那趣味」が生まれた背景、「支那趣味」が書かれなくなった理由など教えられる指摘が多かった。たとえば、谷崎にオリエンタリズム的な視線が生まれた理由として、荷風が挙げられている。荷風は、実際にアメリカとフランスで生活して、その地でいろいろな芸術に触れてきたわけだが、その中で西洋のオリエンタリズムを身につけてくる。そして、西洋の視線を通じて「日本」やを再発見するだろう。そんな荷風に魅了されていたのが若き谷崎であるというわけで、荷風の作品を通じてオリエンタリズム的な視線が伝播して、谷崎は中国を再発見するだろう。
また、逆に谷崎が「支那趣味」が書かれなくなった理由として、中国の現実を見て、味わったからだという。谷崎は二回、中国へ旅行しているが、一度目は中国の文学者との交流がない旅行であった。しかし、二回目はそれとは異なり、中国の文学者や芸術家との交流があった。こうした人々との対話を通じて、自分の中国理解の浅さを感じたのだという。現実の中国を知ることで、幻想が破れ、エキゾチックな空間ではなくなったのだろう。もはや、好き勝手な幻想を当てはめることが出来なくなったのではないだろうか。谷崎の二回の中国旅行に関しては、結構詳しく分析してあり参考になった。