アイデンティティに関して

アイデンティティに関して、次のような言葉は示唆的だと思う。

《「現実の日本に戻ったら、想像の国が永久にこわれてホームレスになってしまうのではないかと、強い恐怖を持ったものです。作家になったのも、この貴重な国をとどめておくためだった、といってよい。」カズオ・イシグロ(「毎日新聞」夕刊1989年12月1日)》
アイデンティティは、イマジナリーな部分で成り立っている。そのイマジナリー領域が、たとえ「真実」の姿を一致しないからといって、他者がそれを批判することができるのだろうか。

文学理論は何のためにあるのか?

「理論は、自分が知っているつもりになっていることを、あれこれの前提や仮定に異議を唱えて、つき崩す性質をもっている。だから、理論のもたらす結果は予測がつかない。勉強したからと言って、理論のマスターにはなれないが、逆に前と同じ位置にとどまっていることもできなくなる。ただ、読みについて新しい角度から考えられるようになるだけである。」ジョナサン・カラー(『文学理論』p.25)