苅谷剛彦『知的複眼思考法――誰でも持っている創造力のスイッチ』

苅谷剛彦『知的複眼思考法――誰でも持っている創造力のスイッチ』講談社、2002年5月
昔読んで非常に印象に残っていた本である。「考える」ということはどういうことなのか、どうすれば上手に物事を考えることができるようになるのか。そうしたことを身につけるのに役立つ本である。
再読してみて印象に残ったのは、次の箇所である。

 先ほど、「日本人は集団主義的だから○○だ」といった日本人全体を一般的に大きくくくってしまうステレオタイプの発想は思考停止に陥りやすいといいました。その対極に個別の事情にこだわり過ぎて起こる思考停止があります。あまりに細かい個々の事情に入り込んでしまうと、事情の特殊性にとらわれ過ぎて思考が前に進まなくなるのです。「そうかもしれないけど、個々のケースによって違うよ」とか、「結局、その人その人で事情が違うのではないか」とか、「時と場合によって原因もさまざまだよ」とか。こうして個別の事情に引き付け過ぎてしまうと、そこで思考は再び停止してしまいます。(p.228)


なぜなら、考えるということは、目の前のひとつひとつ具体的なことがらを手がかりにしながらも、それにとらわれることなく、少しでも一般的なかたちでものごとを理解していくことだからです。つまり、具体的な個別のことがらと、一般的なことがらとの往復運動の中で、考えるという営みは行われるのです。(p.229)

物事を一面的に捉えてステレオタイプで思考してしまうのも困ったことであるが、その一方でなんでも「人それぞれ」とか「ケースによって異なる」と言ってしまうのも困りもの。学生に討論をさせても、すぐに個別の事情にこだわって議論が停止してしまう。具体的な事柄と一般的な事柄の往復運動がなかなかできないのだ。この往復を可能する柔軟性をどうしたら学生に身につけさせることができるか。方法を考えなくてはならない。