村上龍『日本経済に関する7年間の疑問』

村上龍『日本経済に関する7年間の疑問』NHK出版、2006年11月
メールマガジンJMM」に載せられた村上龍のエッセイを集めた本。政治や経済について語っているのだが、全体に流れているのは大手既成メディアに対する批判だ。景気について語っていても、日本の政治について語っていても、行き着くところはメディアに対する強い批判なのだ。メディア批判の内容そのものは間違っていないと思うが、読んでいてそのワンパターンに辟易してしまう。読み進めていくと、どうして村上龍は、自分をメタ的立場に置いて、メディアを批判しているのだと疑問に感じる。既成メディアを上から見下ろしている印象を受ける。言葉の使用に敏感である小説家のわりには、批判の方法にセンスを感じないのだ。
たとえば、メディアの特徴として「対象を一括りにする」(p.202)ということを指摘しているが、そう批判する村上龍自身もメディアを「一括り」にして論じてしまう。そのことに無自覚な点に、小説家として言葉の可能性と限界を真摯に考えているのだろうかと疑問に思う。批判がワンパターンであるというのは、つまり決まり文句しか口にしていないということだ。したがって、相も変わらず、共同体批判を繰り返し、責任ある自律的な「個人」を求める。しかし、「個人」を深く考えている形跡がない。
読んでいて非常に物足りない内容だった。