講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見3』

講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見3 さまざまな恋愛』講談社文芸文庫、2001年8月
第2巻が図書館に無かったので、飛ばして第3巻に突入。以下、各短篇についてのメモ。

  • 山川方夫「昼の花火」…△、もう一工夫欲しい。
  • 壇一雄「光る道」…○、妖しい魅力。すばらしい。
  • 岩橋邦枝「逆光線」…△、今読むとスキャンダラスなテーマじゃない。
  • 丸谷才一「贈り物」…○、せつないと言えばせつないかなあ。
  • 大庭みな子「首のない鹿」…△、よく分からない。
  • 瀬戸内晴美「ふたりとひとり」…×、この程度でエロスとか語って欲しくない。
  • 野呂邦暢「恋人」…△、物足りない。
  • 高橋たか子「病身」…◎、爆笑だけど、傑作。とにかく彼の内部を知りたくてたまらない女性がいる。彼が病気で、病院でレントゲンを撮る。その写真を貰ったところの場面。

彼の手紙が添えられている。――昨日電話で言ったように、何もたしかなことはわかりません。ごらんのとおりです。腰の痛みの原因はこの写真からはわからない、とのことでした。腰痛、というのだそうです。それだけです。
腰痛、と呟いて、彼女は一人笑う。腰が痛い原因をさがしていて、腰痛という病名があたえられたのだ。腰が痛いのなら誰が考えても当然、腰痛であろう。(p.180)

こんな感じの、人を食ったような二人の会話がおかしくてたまらない。

  • 大岡昇平「オフィーリアの埋葬」…○、タイトルから分かるように『ハムレット』の翻案小説。
  • 山田詠美「花火」…◎、肉体/精神という近代文学における「恋愛」ではおなじみの枠では収まらない「恋愛」小説が、ここにはある。

「人の家庭を壊すなんて、あーっ、もう!私には信じられない。お姉ちゃんたら、どうして、そんなことになっちゃたの!?」
「だって恋に落ちちゃったのよ」(p.208)

まさに、こう言うしかない。

  • 宇野千代「或る小石の話」…◎、なんと94歳の時の作品だそうだ。一読三嘆。なんと若々しい感性なのだろう!現代の若手女性作家よりも、何十倍も新鮮だ。
  • 高樹のぶ子「浮揚」…○、「水」や「植物」のイメージを効果的に用いている。

戦後短篇小説再発見3 さまざまな恋愛 (講談社文芸文庫)

戦後短篇小説再発見3 さまざまな恋愛 (講談社文芸文庫)