伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』

伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』新潮文庫、2005年3月
映画の撮影で、ヨーロッパに滞在していたころのエッセイ。ヨーロッパから日本を見直す、一種の比較文化論とも言える。
英語が得意だという伊丹十三なのだけど、それでも外国の映画に出演するためか、かなり英語の勉強をしているのだ。特に発音にはうるさい。母音の発音、子音の発音の仕方について繰り返し注意を与えている。とにかく、英語の発音を身につけるのは難しいことを強調している。
それから、車や料理やファッションについても書いており、その蘊蓄というのか、かなり面白いし、ちょっとした教養として役立ちそう。
私がなるほど!と思った箇所が一つある。
ワインについてだ。曰く、格式の高いレストランでは良い酒は、全て飲み干すのではなく、幾分か残しておくのが不文律なのだという。それが、イナセだからという理由からではない。
レストランには、酒番がいるという。これはソムリエのことだろうか。ともかく、酒番の見習いというのもいる。見習いだから、ありとあらゆる酒をきき分け、精通しておかねばならない。だからといって、高級なワインを見習いの教育のための片っ端に開けていくわけにはいかない。
そこで、客はいい酒を飲んだら、一口二口は残して、これを見習いの少年たちの試供品とするのだ。

将来、優れた酒番が絶滅したら、窮するのは自分達だ、という、このあたりのフランス人の論理というものは、まことに颯爽としていて間然するところがないではありませんか。(p.220)

私は、お酒に興味がないので、このような話を知らなかった。だから、妙に納得した。これは、良いことを知ったなと。
こんな風に、ヨーロッパ文化の伝統というのは教養を書いているので、読んでいて勉強になる。とても面白い本なのだ。

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)