ああ、毒されている…

夏目房之介マンガの深読み、大人読みイースト・プレス
期待して読んだのだけど、あまり面白い内容ではなくて残念。私としては、マンガ文化論や市場論を語る夏目房之介より、マンガ表現論の夏目房之介のほうが好きだ。表現論のほうが、断然面白いし、説得力がある。ぜったい表現論のほうが、マンガ研究に貢献できるはずだ。文化論や、市場論などマンガを読んでもどうせ理解できない大学院生や研究者に任せれば良いではないか。
だいたい、文化論などをやる研究者は、文学研究でも同じだけど、作品を読んで解釈することができない人たちなのだ。自分で読んで理解できないので、文化論とか市場論などのように作品外について研究しているわけで、それは作品を読めないコンプレックスの裏返しなのだ。「どこぞの国では、日本のマンガがこんな風に受けとめられている、びっくり!」みたいな文化論なんて、退屈な話にすぎない。
だから、夏目房之介のように、高いレベルで作品の表現を分析できる人が安易に文化論などにすり寄っていってはダメだ。「文化本質主義」などと若造に批判されても気にせず、がんがん表現分析をしてほしいものだ、と思う。
この本は、3部に分かれていて、1部がエッセイ、2部が『巨人の星』と『あしたのジョー』の徹底分析。3部が、マンガ文化論という構成になっている。やはり、読み応えがあるのは第2部だ。作品分析とインタビューで構成されており、製作現場の雰囲気がよく分かる。資料的にも貴重だし、内容も面白い。
逆にひどく詰まらない内容なのが第3部。ここは、いかにもマンガ学会っぽい言説になってしまっている。おそらく、この界隈の人たちとの交流が、夏目房之介の言語に悪い影響を与えてしまったのだろうなと感じる。
それにしても、三島由紀夫が『あしたのジョー』が読みたいばかりに、編集部まで雑誌を購入しに来たというエピソードは、ちょっと感動的だった。

マンガの深読み、大人読み

マンガの深読み、大人読み