高橋源一郎『ニッポンの小説』

高橋源一郎『ニッポンの小説 百年の孤独文藝春秋、2007年1月
けっこうボリュームのある本なので、読み終えるのに時間がかかるかなと思ったが、いざ読み始めると面白くて一気に全部読んでしまった。保坂和志にせよ、この高橋源一郎にせよ、最近、小説家による小説論が熱い。
ここでは、自由であると思われている小説が、実はそうではなく非常に不自由な制限の下にあることを繰り返し述べている。つまり、小説の制度批判だ。また、近代小説では死者の物語が量産されてきたことに触れている。死者は誰にもわからない絶対的他者である。この誰にもわからない、書けない存在である死者の代弁者として文学が書かれてきたことへの違和感が吐露されている。死者は口がきけないがゆえに、誰かが代弁者として死者の物語を語る。ここでは、こうした言葉のあるいは文学の暴力への批判がなされていると思う。
死者の声を聞くことができないことを良いことに、「ニッポンの小説」は、死者を虚構の発現する場として利用し続けてきたのかもしれない。このことは反省されるべきだろう。
とはいえ、本書に感じられる純粋性への憧れというか志向が気になる。どうして、ここにきて、意味に汚染されていない「存在」をいかにして書くかということが重視されなくてはならないのか。言語に表象され得ないモノと言語の関係、あるいは小説との関係をもう一度考え直そうという試みなのだろうか。純粋性へのこだわりが気になって仕方がない。

ニッポンの小説―百年の孤独

ニッポンの小説―百年の孤独