『世界は村上春樹をどう読むか』

『世界は村上春樹をどう読むか』文藝春秋、2006年10月
今年はとにかく村上春樹が非常に注目された年であった。本書は、3月に行われた村上春樹をめぐるシンポジウムとワークショップの記録である。
世界各国で翻訳され、また多くの熱狂的な読者を持つ、日本の作家としては希有な存在である村上春樹。なぜ、世界で村上春樹の作品が受け入れられるのか。村上春樹というと、こうした問いが常につきまとう。今回は、こうした問いをめぐって、村上春樹の作品の翻訳者たちが議論をした。文学の研究者あるいは批評家とはまた違った観点からの議論が、とても新鮮だった。言語によって翻訳のする際の難しさは異なってくるのだが、それが言語の問題なのか、文化の問題なのか、それとも村上春樹という作家性の問題なのか、非常に奥の深い問題が浮かび上がってくる。そういった点で、たとえば「夜のくもざる」という短編の翻訳について議論されたワークショップは、読んでいて非常に刺激を受ける内容だった。村上春樹の面白さを再発見することになった。
ただ、四方田犬彦だけが他の参加者とは若干温度差があって、それに違和感を覚えた。このあたりは、内田樹がよく言うように、日本の文学者・批評家(若い人はのぞく)がどうして村上春樹を避けるのかといった問題と絡んでくるのだろう。