谷崎潤一郎『吉野葛・盲目物語』

谷崎潤一郎吉野葛・盲目物語』新潮文庫、1951年8月
吉野葛」は、吉野を取材して歴史小説を書こうとしている語り手が、友人の津村と一緒に吉野に出かける。すると、実は吉野の地は津村にとって大切な場所であることが告げられる。ここは、津村の母親が生まれた場所であったからだ。というわけで、一転して津村の「母恋い」の物語になる。南朝の物語を追いかける「私」と母を追い求める津村の二つの物語が重なっているのがミソなのだろうか。ともに失われたものを慕うという点が面白い。
「盲目物語」は、信長の妹の「お市」のことを、彼女に付き従う盲目の「弥市」という男が語る物語である。ひらがなが多く、また段落が少ない文体で構成されているのが特徴。最初は文字がワッとページを埋め尽くしているので、少々読みにくいのだが、読み進めていくにつれてそれも気にならなくなる。
語り手がいて、そして語り手の語る物語を書き留める人物がいる。たしか『卍』もそのような構造だった。

吉野葛・盲目物語 (新潮文庫)

吉野葛・盲目物語 (新潮文庫)