正しい知識を提供すること
「ウラゲツ☆ブログ」さんの記事は面白くて、参考になるので、時々読んでいる。そのなかで、「アマゾンの版元直取引が本格化*1」という記事があり、この内容も興味深かった。
ところでアマゾンの話とは別に、この記事の末尾には、「「国民一人当たりの借金」に関するニュースについて、最後に一言。」という文章があった。そこには、「ちょうど二年前、日本の借金は約670兆円で、国民一人当たりに換算すると約525万円でした。それが今では国全体で約813兆円、国民一人当たりでは637万円になってしまいました。これが貯金だったらものすごい利率で歓喜雀躍といったところですが、いかんせん借金なのです」とあり、「そんなとき出版人は、書店人は何ができるでしょうか。出版社への就職を希望しているあなたなら、どんなことを考えますか」と問いかけておられる。面白い問いかけだと思ったので、私も少し考えてみた。
このニュースの詳しいことが分からないし経済学音痴なので、誤解しているところもあるかもしれないが、なんとか答えてみたい。この「国民一人当たりの借金」で思い出したは、最近読んだ飯田泰之氏の『経済学思考の技術』という本だ。ここには、データに騙されないポイントとして、「「印象バイアス」に注意する」ことが挙げられている。私たちは、データから思わぬ印象の歪みを受けてしまうことがある。その歪みは正しい判断から、私たちを遠ざけてしまうのでデータには注意をしなくてはいけないという教えだ。さらに、飯田氏はこう指摘している。
特に、マクロの経済統計や産業動向を表す数字は私たち個人にとっては想像もできない水準のものが多く含まれます。これらの数値を私たちの身近な縮尺に落としたり、身近なものと比較したりして、その大きさを解説しようとすると大きな誤解の元になります(そして意図的に誤解を誘導する手段になります)。(p.42)
そして、たとえば「国債残高を一人当たりに直すと500万円以上! 4人家族当たり2000万円!」といった話の間違いは、「ネットとグロスの区別がついていない」「個人の借金と国の借金は性質が違う」「日本の国債の主な所有者は国内の企業・個人である」(p.42)といった点に注意すれば明らかになると述べている。要するに、国の借金を国民一人当たりに換算して驚いてみても、それ自体は意味がある話にならない。さらに詳しいことは、飯田氏の本を参照してもらいたいのだが、ここで出版人として大事なことは読者に誤った知識を与えないように注意する、あるいは「印象バイアス」を通じていたずらに人々に不安を与えるような本を作らないということではないだろうか。もちろん、これは出版人だけの問題ではなく、書き手の問題でもある。とはいえ、売れればいいとスキャンダラスな内容の本を作るよりも、できるだけ正確な知識を与えてくれる本を作ること、出版業界の事情を知らないのでかなり理想的すぎるのかもしれないが、それが出版人の良心だと思うし、私ならこのことにこだわっていきたいものである。