成瀬巳喜男『夫婦』

◆『夫婦』監督:成瀬巳喜男/1953年/東宝/87分
この作品も『めし』と同じようなテーマの物語を扱っている。上原謙は、『めし』と同じような、仕事はできるが、家にいると何もしない夫を演じている。上原謙の顔は、どこか頼りなさげなので、寝取られ夫の役なんかをやるとうまくはまるのかもしれない。妻が何を言っても、のれんに腕押しといった感じで、家庭内における男性(夫)の無能力さを、上原謙の顔は見事に表現していると思われる。また、無能力な夫の典型的な動作の一つとして、畳の上に横になることが挙げられるだろう。
この映画は、ラストシーンが見所。妊娠したことが分かったのだが、引っ越しをした家が子供はダメということで、近い将来また引っ越さなければならない問題が生じる。しかし、夫の給料では、引っ越しをして子供を育てていくのはつらい。そこで、夫は子供はあきらめようという。だが、妻(杉葉子)は子供を産みたいと思っている。
寒風が吹いている公園で、夫婦は病院に行く決心を固めている。夫が、妻を連れて病院に行くが、妻はやはり子供を堕ろしたくないので病院を飛び出してしまう。もとの公園に戻りうなだれる妻。追いかけてくる夫。夫は、妻の決意をそこに見て、子供を育てようと言う。このラストシーンが、かなり良い。杉葉子のためらいがちに笑顔になるところがすばらしいのだ。上原謙は、『めし』でもこの『夫婦』でも、最後の最後に頼りがいのあるところを示す。普段はまったくだらしがないので、このギャップが上原謙を良い男、良い夫にしてしまうのだろうななあ。なんともおいしい役だ。というか、少々ずるい役かもしれない。