岡本喜八『日本のいちばん長い日』

◆『日本のいちばん長い日』監督:岡本喜八/1967年/日本/157分
原作は大宅壮一。「日本のいちばん長い日」とは、終戦の日すなわち8月15日のこと。物語は、その前日14日から15日までの長い長い一日を描く。
この前、「戦後短篇小説」のシリーズを読んでいた時、日本人にとって「8月15日」とは何だったのか、この日を描いた文学や映画を集めたら面白い研究ができるのではないかと書いた。そんなこともあって、この映画が気になっていたのだ。物語の中心は陸軍で、彼らの一部はあくまでポツダム宣言を受諾せずに、本土決戦を主張する。しかし、天皇によって戦争の終結が決定し、例の玉音放送が準備される。この放送を阻止し、あくまで戦争続行を主張する陸軍の一部が暴徒化し、宮中を襲撃してしまい、あたかも2・26事件のような状況に至るが…。
出演者のほぼ全員が男性という異様な映画。女性の姿など、画面にほとんど出てこないのだ。唯一はっきりと女性がいたのは、鈴木貫太郎の家を襲撃した場面で、そこのお手伝いさんの女性(?)ぐらいだった。あと、特攻隊の突撃を前にして兵士を送り出す町の人々として出ていたぐらいだろう。この映画はまさしく男性による男性の映画だ。おそらく、戦争というものが、男性による男性の…、というものだったのかもしれないと考えさせられる。
俳優は、ベテランから若手まで、これまた戦時風に言うならば総動員という感じ。私の好きな笠智衆が鈴木首相の役なのだけど、これまた小津映画での良き「父親」といった雰囲気そのままだった。この映画には、天皇も重要な役なのだが、画面ではその姿をあまりはっきりと見せない。特に顔は隠したり、ぼかしてあった。笠智衆のイメージは、画面にははっきりと姿をみせない天皇のイメージの代理となっているのだろうか。
逆に顔のアップが多いのは、反乱を起こす若手兵士たち、とくに「畑中」少佐の顔ではなかろうか。つねに鼻の穴を広げ、目玉が飛び出るのではないかというぐらい、目を剥き出しにして、戦争続行を唱える「狂気」と化した「畑中」。調べてみると、この「畑中」役は黒沢年男とのこと。迫力ある「顔」だった。