笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』

笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』文藝春秋、1994年9月
笙野頼子は、この「タイムスリップ・コンビナート」で94年に芥川賞を受賞している。94年には「二百回忌」で三島由紀夫賞もとっていた。それにしても、デビューは81年の「極楽」(群像新人賞)ということなので、芥川賞受賞まで13年掛かっているなあと、著者略歴を見て考える。
この単行本には、「タイムスリップ・コンビナート」のほかに「下落合の向こう」と「シビレル夢ノ水」が収められている。
「タイムスリップ・コンビナート」は、マグロと恋愛する夢を見て悩んでいたら、当のマグロかどうかわからないやつから電話がきて、「海芝浦」という駅に出かけさせられるという物語。これだけだと、何だかよく分からない。読み終えても何だかよく分からない。読んでいると、だんだん居心地が悪くなってくる。自分の持っている言葉のイメージをすべて壊していく、そういう嫌な感じがもうたまらない。自分のイメージの貧困さをまざまざと感じる。
特に「シビレル夢ノ水」がすごい。とにかく気持が悪くなる。「蚤」が部屋中で繁殖するのは想像するだけで気持が悪い。しかも、蚤のなかでじっと寝ている主人公を想像すると、さらに気持が悪くなるし、おまけにこの蚤は巨大化するのだ。そして、主人公に見せびらかすように生殖行為をしていたり…。この世の悪夢だ。こうした悪夢を淡々と語るから、さらに恐怖は倍増する。恐ろしい小説だ。

タイムスリップ・コンビナート (文春文庫)

タイムスリップ・コンビナート (文春文庫)