高橋源一郎『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』

高橋源一郎『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』集英社、2005年5月
この前の『性交と恋愛にまつわるいくつかの物語』(ISBN:4022579722)と比べたら、こちらのほうが断然面白い。私は不勉強ながら、宮澤賢治の作品を読んだことがないのだけど、それでもこの小説は楽しめた。「ミヤザワケンジ」というタイトルだったり、たしかに宮澤賢治の作品のタイトルが章題となっているのだけど、だからといって元の作品を気にする必要はないのだろう。
『性交と恋愛にまつわる…』でもそうだったのだけど、この小説でも複数の文体が用いられている。いかにも「文学」といった文体から、「女子高生」的な言葉だったり、「女性雑誌」的な言葉であったり。こうした今現在のテレビや雑誌に見られるような言説でもって、「文学」が可能なのか、こうした言葉でも「文学」になるというか、これこそ「文学」なのだということを証明しようとしているのだろうか。このあたりの高橋源一郎の戦略については、私は全然分からない。
実験的な文体や言葉遣いは、高橋源一郎の作品では珍しいことではないから、このことにこだわる必要もないのだろうか。よく分からない。しかし、『性交と恋愛にまつわる…』もこの『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』もともに、「性」(というよりセックスか)と「死」の二つの大きなテーマで成り立っている。まあ、文学というものが突き詰めていけば、この二つのテーマでほぼ覆われてしまうのかもしれないけど。
「B−3 永訣の朝」という章が、私には印象的だった。「詩」や「文学」の正体をちらりと見た感じがした。

ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ

ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ