趣味が、都市を変える
◆森川嘉一郎『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』幻冬舎
もう一冊の『趣都の誕生』のほうもメモしておこう。
この本の中心となる主題は、ずばりこれだ。
趣味が、都市を変える力を持ち始めたのである。(p.28)
個人の趣味が、秋葉原の風景を変えてしまった。一つの街を変えてしまう趣味の力とは何だったのだろう。たしかに、この主題は再読してみても面白い。
著者によると、趣味は文化的権威に対してどのような態度を取るかによってある程度定義できるという。すなわち、文化的権威に自らを同一化しようとする態度と、文化的態度に対する反抗的態度をとることの二つがある。
では、文化的権威に自分が染まってしまうことから身を守るためにはどうするか。この文化的権威を自らの趣味に染めてしまう、そして文化的権威を自らに同化させてしまう。
戦後に日本であれば、アメリカ文化が、圧倒的に上位にあり権威として存在していた。権威としてのアメリカ文化から主体性を防衛するために、権威を趣味で変容させてきた、という見方ができるだろう。恐るべし、趣味の力!
とりあえず、まとめるとこんな感じになるだろうか。
-
- 文化的権威に対して自らを同化させる=上昇指向的、外向的人格、女性、渋谷
- 文化的権威を自らの趣味で主体に同化させる=下方指向的、内向的人格、オタク、秋葉原
そして、このような傾向が都市の様相に如実に現れている。
-
- 秋葉原の建築=窓の面積が極端に狭い。内部が見えない。外部との遮断。個室化。趣味によって内部を支配。
- 渋谷の建築=建物の透明化。ショッピングしている自分の姿を他人に見せるような。演技性。劇場性。
この指摘が面白い。ああ、実際にこの目で見たいなあと。
比較文学を研究する者としては、外国の文化に対して日本がどのような態度で対峙してきたのか、という分析がとても気になる。その点、文化的権威を趣味で自らの好みに変え、同一化させてしまうという分析が私にはとても有益なものだった。