「考える」ということの見本
◆橋本治『いま私たちが考えるべきこと』新潮社
◆野矢茂樹『論理トレーニング』産業図書
『いま私たちが…』は良い本だった。「自分のことを考える」と言うと、まず「自分のこと」を考えてしまう人と、まず「他人のこと」を考えてしまう人の二通りの人がいる、ということからこの本は始まる。この二つは、あとで「個性」と「一般性」と言い換えられる。どうやら、「個性」だけでも「一般性」だけでも何か物足りないようだ、ということが分かる。
橋本治が提案することで、面白いのは、必要なときに「私たち」というものが成り立たせればいいのではないか、ということだ。つねにみんな一緒である必要はない、たまには一人であってもよい。それと同じように、たまにみんな一緒であってもよい。それが自然なのでは、という。「自分」がいて、「他人」がいる。橋本治の出発点はこれである。というわけで、この本のタイトルでもある、私たちが考えるべきこととは、次のようなことになる。
いま私たちの考えるべきことは、「必要に応じて”私たち”を成り立たせられるだけの思考力と、思考の柔軟性をつけること」――このことに尽きるだろうと、私は思う。(p.221)
このことを述べるための思考のプロセスを追うのが楽しい。けっして難しい言葉は用いない。しかし、決していい加減な答えで誤魔化そうとしない。自分も他人もおろそかにしない著者の姿勢を見習うべきだろうと思う。
『論理トレーニング』も読んで良かった。論理的な文章を書く約束事を学ぶ。もっと早く読んでおけば良かった。第12章の論文の書き方の章は、これからも何度も読み直そうと思う。