『イン・ディス・ワールド』

◆『イン・ディス・ワールド』2002年/イギリス/89分 監督:マイケル・ウィンターボトム
今年はじめて映画を見に行く。マイケル・ウィンターボトムの『イン・ディス・ワールド』。ウィンターボトムは好きな監督の一人。以前、『バタフライ・キス』で打ちのめされた経験がある。ウィンターボトムは、前に『ウェルカム・トゥ・サラエボ』で、戦争に翻弄される子どもたちを描いたけど、今回もその系列の映画だ。
個人的には、ウィンターボトムにはこういう「政治」が絡むような映画は撮って欲しくないなあと思う。『イン・ディス・ワールド』は、パキスタンの難民キャンプから脱出してロンドンへ向けて陸路づたいで移動するドキュメンタリータッチの物語?というもの。この映画の上映に際し、ウィンターボトムは主人公の少年が理解できる言葉のみ字幕をつけるという方法を採った。つまり、観客がこの少年と出来る限り同じ視線で、同じ位置からこの過酷なロードを見て貰おうという配慮なのだろう。なので、言語だけではなく、たとえば国境を越える際に、真夜中に雪山を越えなければいけない場面があるのだが、ここではカメラが映し出すのは彼の見える範囲のみの粗い映像となっている。暗闇で先が見えず、いつ警備隊に見つかるかという不安を観客にも経験させようとする。でも、見ていてそれほど「恐怖」は感じない。むしろあっさりしているなあという印象を受けてしまう。
これはやはり編集の問題だと思う。主人公の少年と観客を同一化させようと狙っているだが、一方で観客が少年に同一化しそうになると、シーンが次のシーンに移ってしまう。まるで同一化を拒むかのように!要するにこの映画は切れ切れのシーンが多いのだ。各エピソードを丹念に描き込むということはしない。したがって、少年の置かれた状況は過酷にも拘わらず、それが観客に身体的レベルで伝わってこない。あっさりした映画だと感じたのは、そんなところに原因があるのかもしれない。
それにしても、この少年の生命力はすごい。彼だけがなんとかロンドンにたどり着くが、難民申請は却下され、18歳の誕生日までに(映画のなかでは16歳だった)ロンドンを出ないといけないという。ここも、彼にとっては安住の地にはならなかったということだ。