もてる男

西尾維新きみとぼくの壊れた世界講談社
◆甚野尚志『隠喩のなかの中世』弘文堂

きのうの日記を書いたあと、結末が気になったので一気に最後まで読んでしまった『きみとぼく…』。うーん、面白い小説であることは認めるけれど、衝撃というか…読み終えた後に何か足りないなあという思いがある。足りないというより、正直に言えば「甘い」なと。なんせ、私も大人なので。

もてない男」が村上春樹を読む、みたいな感じで感想を述べると、そんなに簡単に女の子が寄ってきて、まして妹までからも愛される男が、「壊れた世界」もなにもないだろう。

僕は、力なく、うな垂れた。/「――つらい、よ」

もてない男」が読んだら、ムキッーとなりそうな場面だ。「何が辛いんだよ?女の子達に守ってもらっているくせに!!」なんていうふうに。

大事な妹。/可愛い彼女。/頼れる親友。/好きな人。/今日も世界はこんなに平和だ。/気分がいいので、保健室に行こう。

本当に「もてない男」がキレそうなラストシーンだとつくづく思う。

『隠喩のなかの中世』、なかなか興味深い一冊。中世の人たちが、世界を隠喩で捉えようとするのは現代人からみるとプリミティブな感じがするだろう、云々ということが書かれてあったけれど、このあたりを読んでいて思い出したのが中上健次中上健次も隠喩で語る人だったし、その世界はたしかにプリミティヴだなあと。それが、「個」の表出としての小説に対する抵抗なのかもしれないが。中上の小説というのは、ジャンルの歴史というか文学の歴史の層が厚く積み重なっているのだろう。